北京人型ロボットイノベーションセンター(X-HUMANOID)は、ヒューマノイドロボットの展示施設ではなく、基盤モデル・学習データ・量産前検証・現場実証を一体で担う産業化拠点です。本記事では、同センターが公開している会社資料と公式発表をもとに、施設が持つ4つの中核機能と主要機体の仕様を整理し、日本企業が視察や共同検証を検討する際に確認すべき論点をまとめます。
※本記事は2026年8月時点の公開資料に基づく机上整理であり、現地での稼働確認を経たものではありません。
北京人型ロボットイノベーションセンターとは
北京人型ロボットイノベーションセンター(北京人形机器人创新中心/英名 Beijing Innovation Center of Humanoid Robotics、ブランド名 X-HUMANOID)は、2023年11月に北京・亦荘(北京経済技術開発区)で設立された、ヒューマノイドロボットとエンボディドAIの研究開発機関です。UBTECH、小米(Xiaomi)系のロボット企業、北京京城機電などが共同で設立しました。
2024年10月には、中国工業情報化部と北京市が共同で設立する「国家・地方共同建設エンボディドAIロボットイノベーションセンター」に位置づけられました。主要技術のオープンソース化、業界標準の策定、産学連携、応用実証を担う公共プラットフォームとしての性格を持ちます(出所:JETRO「政策の牽引で成長を加速させる北京市のエンボディドAI産業」2026年6月4日)。
https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/2026/ca98af240d8c5e4a.html
会社資料によれば、研究開発人員は全体の約70%、修士・博士の比率は約80%、平均年齢は32歳とされています。市場化融資による累計調達額は2026年2月時点で7億元超と記載されています。
4つの中核機能
同センターを理解するうえで有効なのは、機体のスペックではなく機能の分解です。公開資料からは次の4つが読み取れます。
1. 研究開発:機体と基盤モデルの両輪
ロボット本体として具身天工(Tiankung)シリーズと天軼(Tian Yi)シリーズを、AI側として汎用エンボディドAI基盤「慧思開物(Huisi Kaiwu)」を開発しています。このほか、視覚言語モデルのPelican-VL、VLA大規模モデルのXR-1、世界モデルのWoW、統一型モデルのPelican-Unifyなどが公開資料に示されています。
2. データ工場:5,000平方メートル超の学習データ生産拠点
同センターの特徴が最も明確に出るのがこの機能です。会社資料では、5,000平方メートルを超える専用のデータ収集・訓練空間、100種類を超えるロボット本体、年間1,000万件超の高次元データおよび操作軌跡の生産能力が示されています。
公開されている操作データセットRoboMIND V2.0は、30万件超の双腕操作軌跡、1.2万件超の触覚操作データ、700を超えるタスク、6種類のロボットプラットフォームを含むとされています。
ロボットの性能がハードウェアよりも学習データの質と量に依存する局面において、この規模のデータ生産設備を単独で保有している点は、機体の見た目以上に重要な差になります。
3. 中試検証:量産前の作り込みを担う工程
「中試(ちゅうし)」とは、試作と量産の間に位置する量産前検証の工程を指す中国語の用語です。日本企業でいう試作評価・量産試作にあたります。
同センターの中試検証プラットフォームは、統合関節の製造、標準化組立、モジュール組立・校正、全機の組立・校正、性能検証、工程最適化を含むとされています。生産能力については、全機で年産5,000台超、関節で日産200個超、搭載実績で累計3万個超という数字が会社資料に記載されています。
4. 実証導入:電力・製造・展示・教育の4領域
公開されている導入先には、国家電網/中国電力科学研究院、北京福田康明斯発動機、同センター1階の展示ホール、北京大学、復旦大学、香港科技大学(広州)、華中科技大学、武漢大学、北京理工大学、北京航空航天大学などが挙げられています。用途は電力設備の巡検、工場内物流、展示ホールでの案内、教育・研究用途が中心です。
また、中国郵政集団有限公司の北京市分公司との戦略提携により、ロボットをテーマとした郵便局と「エンボディドAI・スマート郵政共同イノベーション実験室」の設置が計画されていると発表されています。
この記事のテーマについて、貴社の状況に合わせて個別にご相談いただけます。
中国の現地調査・企業視察・製品調達・導入検討など、目的に合わせて必要な支援を組み立てます。
通常1〜2営業日以内にご返信します。依頼内容が固まっていない段階でも構いません。
主要機体の比較
| 項目 | 具身天工3.0(Tiankung 3.0) | 天軼2.0(Tian Yi 2.0) |
|---|---|---|
| 形態 | 二足歩行のフルサイズ人型 | 車輪移動型の双腕ロボット |
| 身長・高さ | 約170cm | 130〜165cm(可変) |
| 重量 | 64.5kg | 88.5kg |
| 自由度 | 43DOF(商品シートでは31 active DOF/エンドエフェクタ除く) | 35DOF |
| 演算 | NVIDIA Jetson AGX Thor×1、2,070 TOPS | NVIDIA Orin AGX 64×1、275 TOPS |
| 稼働時間 | 2時間以上(デュアルバッテリー、ホットスワップ対応) | 2時間超 |
| 開発環境 | ROS 2互換、CAN FD/EtherCAT、URDF公開 | Ubuntu 22.04、ROS 2、制御周期400Hz超 |
| 主な想定用途 | 警備・巡検、案内・受付、産業品質検査、工場内物流 | 巡回巡検、施設案内、物品搬送、遠隔操作、一人多機運用 |
| 量産状況 | 2026年下半期に規模量産・納入開始予定 | 実証段階 |
具身天工3.0の自由度は、紹介資料では43DOF、英文の商品シートでは31 active DOF(エンドエフェクタを除く)と表記が分かれます。社内での比較検討に使う場合は、対象機の正式仕様書で確認することを推奨します。
なお天工シリーズは、2024年4月の天工1.0 LITE(20自由度)から、同年8月の1.1 PRO/1.2 MAX(42自由度)、2025年4月の天工2.0(複雑地形への適応歩行)を経て、2026年2月に具身天工3.0が発表されています。約2年で世代交代が3回進んでいる計算になります。
慧思開物が示す「一脳多機・一脳多能」
慧思開物(Huisi Kaiwu)は、2025年3月に発表された汎用エンボディドAI基盤です。構成は2層に分かれます。
- 具身大脳:自然言語の理解、視覚認識、意図の解釈、タスク分解、長期的な作業計画を担当します。
- 具身小脳:把持、歩行、軌道生成、姿勢制御、両腕協調、障害物回避など、計画を身体動作へ変換します。
同センターはこの構成を「一脳多機(同じAI基盤を人型・車輪型・ロボットアームなど異なる本体へ展開する)」「一脳多能(同じAI基盤で仕分け・搬送・組立・案内・巡回など複数業務を担う)」という言葉で説明しています。
日本企業にとっての含意は、ロボット1台につき1つの専用プログラムを作るという従来の構造が前提でなくなりつつある、という点です。導入検討の単位が「機体」から「基盤+業務データ」へ移るとすれば、評価すべき対象も、可搬重量やスペックから、新しい業務を1つ追加するのに必要な学習データ量と期間へ移ります。
株式会社ロボットワークスは、中国フィジカルAI・ロボット領域に特化し、日本企業向けに市場調査、企業視察、企業ヒアリング、導入検討を支援しています。
視察・共同検証で確認すべき論点
同センターを訪問先や共同検証先として検討する場合、展示ホールの見学だけでは判断材料が揃いません。次の項目を事前に整理したうえで臨むことを推奨します。
- 見学可能範囲:展示ホールに加えて、データ収集基地と中試検証ラインの見学が可能かを事前に確認します。施設の本質はこの2つにあります。
- データの採取方法:頭部装着型デバイス、モーションキャプチャスーツ、遠隔操作コックピット、グリッパ型採集装置など、どの手法をどの業務で使い分けているかを確認します。
- データの品質管理:データ合格率の定義、クレンジング工程、失敗データの扱いを確認します。数量よりも定義のほうが重要です。
- 中試検証の工程:試作、機能検証、モジュール調整、全機テスト、量産前評価のうち、外部企業が利用できる範囲を確認します。
- 外部企業向けの条件:データ利用権、データの越境移転、撮影可否、NDAの範囲、共同PoCの費用構造を、訪問前に文書で確認します。
- 未公開の項目:価格、日本での販売・保守体制、安全認証(PSE・電波法等)、商用導入台数、現場KPIは公開資料では確認できません。商談の場で個別に確認する必要があります。
自動車・製造業のお客様であれば、完成車ラインの中核工程ではなく、工場内物流、部品搬送、棚入れ、ピッキング、外観検査、工程間移動といった周辺作業を起点に、必要なデータ設計と検証プロセスを議論する場として使いやすい相手です。
よくある質問(FAQ)
Q. 北京人型ロボットイノベーションセンターは何をしている組織ですか。
A. ヒューマノイドロボットの機体開発、エンボディドAI基盤モデルの開発、学習データの生産、量産前検証(中試)、現場実証、産学連携を一体で行う機関です。2024年10月に中国工業情報化部と北京市による国家・地方共同建設のイノベーションセンターに位置づけられています。
Q. 具身天工3.0は購入できますか。
A. 2026年下半期に規模量産・納入を開始する予定と公表されていますが、価格、日本での販売可否、納期、保守体制は公開資料では確認できません。導入を検討する場合は個別の確認が必要です。
Q. 日本企業が視察や共同検証を行うことは可能ですか。
A. 大学・研究機関や産業パートナーとの連携実績は公開されていますが、外部企業向けの見学範囲やPoCの条件は公表されていません。目的と確認事項を整理したうえで、事前に条件をすり合わせる必要があります。
関連情報
- 中国エンボディドAI産業はどこまで進んでいるのか。2025年版ホワイトペーパーから読む実装競争
- ワールドモデルとは何か。フィジカルAI時代にロボットと自動運転を進化させる「世界を理解するAI」
- ゴールドマンサックスが見た中国ヒューマノイドロボット産業の現在地:「SF」から「工場」へ
参考:北京人型ロボットイノベーションセンター公式サイト(x-humanoid.com)、北京市科学技術委員会、JETRO「政策の牽引で成長を加速させる北京市のエンボディドAI産業」(2026年6月4日)
中国ヒューマノイドロボット企業の調査・視察をご検討の方へ
株式会社ロボットワークスは、中国・深センを拠点に、日本企業向けの市場調査、企業視察の設計・同行、中国企業へのヒアリング、導入検討支援を提供しています。訪問先の選定や確認事項の設計から対応しますので、具体的な視察先や依頼内容が決まっていない段階でもご相談いただけます。
