世界の四足ロボット市場が急速に拡大しています。IDCによると、2026年上半期の世界出荷台数は4.9万台を超え、前年同期比92.5%増となりました。市場規模も4億米ドルを超えています。
ただし、今回のデータで重要なのは「約5万台売れた」という台数だけではありません。教育・研究や家庭向けが出荷台数を作る一方、工場、電力設備、公共安全などの産業用途が売上の大部分を生み出す構造が鮮明になっています。
本記事では、2026年10月1日時点の公開情報をもとに、四足ロボット市場の収益構造とUnitree、Deep Robotics(云深处科技)、具微科技(Micbot)の違いを整理します。
四足ロボット市場は「台数を作る市場」と「売上を作る市場」に分かれている
IDCによると、2026年上半期は教育・研究と家庭向けが世界の四足ロボット出荷台数の約60%を占めました。一方で、これらの用途が生み出した売上は市場全体の3分の1未満です。
これに対して、政府、工業製造、公共事業などの業界用途は出荷台数では40%未満ですが、売上では3分の2以上を占めています。業界用途の市場規模は2.7億米ドルを超え、前年同期比125.1%増。導入台数も1.9万台を超え、前年同期比260.5%増となりました(出典:IDC、2026年9月21日)。

つまり、四足ロボット市場では「教育・研究・消費市場が台数を作り、産業市場が売上を作る」という構造が明確になりつつあります。ロボット本体の出荷台数だけでは、市場の収益性や商用化の進み具合を判断できません。
工場向けは半年で4,100台超、出荷台数は前年同期比537.9%増
特に伸びているのが工業製造です。IDCによると、2026年上半期の世界の四足ロボット工業製造市場は約7,675万米ドルで、前年同期比194.2%増。導入台数は4,100台を超え、出荷台数は前年同期比537.9%増となりました。
主な用途の一つが設備巡検です。工場内のメーター、配管、設備温度、異音、ガス、熱画像などをロボットが巡回しながら確認します。高温、粉じん、化学物質、爆発リスクなど、人が入り続けることに負担や危険がある場所ほど四足ロボットを導入する意味が出てきます。
人型ロボットのように人間と同じ形をしている必要はありません。段差や階段を越えながら安定して移動し、必要なセンサーを運び、データを取得して戻ってくる。この用途では四足という形状そのものが合理的です。
Unitreeは「量産と低価格化」、Deep Roboticsは「業界導入」で強みを作る
中国企業の中でも、各社は同じ市場を狙っているわけではありません。UnitreeはGoシリーズなど教育・研究・消費市場向けの低価格製品から、B2などの産業向け製品まで広く展開しています。特徴は、標準化した製品を大量に製造し、価格を下げながら市場を広げるモデルです。
Unitreeの招股書では、四足ロボットの平均販売価格は2023年の3.83万元から、2024年3.23万元、2025年3.03万元へ低下しました。一方、四足ロボット事業の粗利率は43.71%、51.65%、56.72%へ上昇しています。
同社は、生産工程の改善や調達コスト低減に加え、B2・B2-Wなど産業向け四足ロボットの売上構成が増えたことを粗利率上昇の要因として説明しています(出典:Unitree招股意向書)。
一方、Deep Robotics(云深处科技)は、電力巡検、工業巡検、消防・緊急対応などの業界用途を中心に実績を積み上げています。IDCは2026年上半期の世界四足ロボット「業界用途市場」でDeep Roboticsを首位としています。
上海証券取引所に提出されたIPO資料では、電力巡検分野で累計300台超を販売し、国家電網と南方電網傘下の100を超える変電所で導入されたと開示しています(出典:上海証券取引所)。
Unitreeが量産、価格競争力、研究開発市場への普及力を強みにしているのに対し、Deep Roboticsは特定業界への導入実績とソリューション構築で強みを作っていると整理できます。両社を単純な出荷台数だけで比較すると、事業モデルの違いが見えなくなります。
具微科技は高危険度の工業現場に集中
具微科技(Micbot)は、鉱山、電解アルミ、化学、石油化学など、高温、強磁場、防爆要求などがある工業現場を重点領域としています。IDCの公開記事でも、車輪型ロボットや工業向けフィジカルAI技術を使い、防爆などの特殊製品を量産・納入している企業として紹介され、工業市場の売上シェアで上位に位置するとされています。

一部の中国メディアでは、IDCの有料調査を引用して具微科技を工業製造分野の「世界1位」と紹介しています。ただし、IDCが一般公開している記事には全社の詳細ランキング表が掲載されていません。このため、株式会社ロボットワークスでは公開一次情報だけで順位を断定せず、「工業市場で上位」として扱います。
重要なのは順位よりも、顧客が何に対してお金を払っているかです。防爆要件、特殊環境への耐性、センサー統合、設備管理システムとの接続まで含めて初めて「現場で使えるロボット」になります。高危険度の産業市場では、本体の走行性能だけでは商売になりません。
「世界1位」が複数存在する理由―調査会社ごとに市場定義が違う
四足ロボット市場を見る際には、「1位」「市場シェア○%」という数字の分母を確認する必要があります。世界市場なのか中国市場なのか、四足だけなのか輪足も含むのか、出荷台数なのか売上なのか、本体売上なのか企業全体の営業収入なのかによって順位は変わります。
実際、2026年上半期の世界四足ロボット出荷台数について、IDCは4.9万台超としていますが、Counterpoint Researchは約3.5万台と推計しています。約1.4万台の差があり、調査対象や製品定義、集計方法が一致していない可能性があります(出典:Counterpoint Research)。
Frost & Sullivanも2026年9月に四足・輪足ロボットの白書を公表し、業界の競争軸が単体性能から、製品プラットフォーム、現場適合、案件の横展開、規模納入、継続サービスへ移りつつあると整理しています(出典:Frost & Sullivan、2026年9月15日)。市場シェアだけでなく、どの用途で、どの収益を数えた数字なのかを見ることが重要です。
四足ロボットの本当の商売は、本体販売の後にある
産業用途では、ロボット本体を購入しただけでは仕事はできません。例えば工場巡検であれば、可視光カメラ、熱画像カメラ、ガスセンサー、音響センサーなどを搭載し、施設側のネットワークや設備管理システムへ接続する必要があります。巡回ルート設定、異常検知、遠隔監視、充電、保守も必要です。

そのため、ロボット本体の販売価格と、プロジェクト全体の売上は一致しません。システムインテグレーション、ソフトウェア、運用、保守まで含めると、本体より大きな事業になる可能性があります。Frost & Sullivanが「設備販売からシステム統合、ソフトウェアサービス、継続運用へ」と指摘しているのは、この変化です。
中国の四足ロボット市場は、すでに「どの機体が速く走れるか」を競う段階から、「どの企業が現場の仕事を安定して任せられる仕組みを作れるか」を競う段階へ移り始めています。
日本企業にとっての事業機会
日本市場で中国製四足ロボットを展開する場合、完成機の価格だけで判断するのは適切ではありません。電力、化学、製鉄、プラント、トンネル、防災などでは、日本の現場に合わせたセンサー、設備管理システム、安全設計、通信、保守体制まで整える必要があります。
中国企業が強いロボット本体に、日本企業が持つ現場ノウハウ、SI、センサー、保守サービスを組み合わせる余地があります。完成機の販売代理だけではなく、「現場で実際に使える状態まで持っていく」部分に事業機会があると考えられます。
Unitreeを含む中国ロボット企業の技術・事業モデルについては、Unitree H2 PlusとNVIDIA Isaac GR00Tが示すヒューマノイドロボット開発の新段階でも整理しています。中国ロボット市場全体の調査、メーカー比較、現地企業へのヒアリング、PoC・導入検討については、株式会社ロボットワークスのサービス内容をご覧ください。
中国四足ロボットの調査・導入検討をご相談ください
株式会社ロボットワークスは、中国・深センを拠点に、日本企業向けの市場調査、企業・製品比較、中国企業へのヒアリング、現地視察、製品調達、PoC・導入検討を支援しています。四足ロボットについても、メーカーの公表スペックだけでなく、用途、価格、保守、システム連携、実導入状況まで確認して整理します。
参考出典
IDC/「出货4.9万台,行业应用增长260%:四足机器人市场继续分化,“消费走量、行业赚钱”」/2026年9月21日/https://www.idc.com/
Frost & Sullivan/「2026年全球四足及轮足机器人产业发展白皮书」/2026年9月15日/https://www.frostchina.com/
Counterpoint Research/「Global Quadruped Robot Shipments Hit 35,000 Units in H1 2026, Growing Industry Demand Boosts Long-term Potential」/2026年9月21日/https://counterpointresearch.com/
Unitree/招股意向書/2026年7月31日/CNINFO公開PDF
上海証券取引所/云深处科技股份有限公司 IPO審査情報/2026年5月18日受理/上海証券取引所
