Unitreeの次に上場するのはどこか:中国フィジカルAI「次のIPO候補」4社を比較

中国のフィジカルAI産業が、技術デモの段階から資本市場で評価される段階へ移り始めています。その象徴が、四足歩行ロボットとヒューマノイドロボットを展開するUnitreeです。同社は2026年3月に上海証券取引所の科創板へIPOを申請し、6月には上場審査を通過したと報じられています。

ただし、中国のフィジカルAI企業はUnitreeだけではありません。すでに上場申請へ進んだ企業、量産能力を打ち出す企業、AIモデルやデータ基盤を構築する企業など、次のIPO候補と見られる企業が育っています。本稿では、Agibot、GALBOT、Deep Robotics、TARS Roboticsの4社を取り上げ、技術力、商業化、量産能力、IPOまでの距離を比較します。

なお、本稿は特定企業への投資を推奨するものではありません。中国ロボット企業の提携、調達、視察、PoC、事業開発を検討する日本企業向けに、公開情報と現地業界情報をもとに事業判断の見方を整理するものです。

目次

この記事でわかること

  • UnitreeのIPO進展が中国フィジカルAI産業に与える意味
  • Deep Robotics、Agibot、GALBOT、TARS Roboticsの違い
  • IPO候補を見る際に、売上、量産、顧客導入、データ基盤をどう評価すべきか
  • 日本企業が中国フィジカルAI企業と組む前に確認すべきポイント
  • 株式会社ロボットワークスが支援できる調査、視察、提携、PoC領域

なぜ中国はフィジカルAIを国家戦略に据えるのか

中国がフィジカルAIを重視する理由は、単にヒューマノイドロボットが話題になっているからではありません。その背景には、米中技術競争、製造業の高度化、人口構造の変化という三つの大きなテーマがあります。

第一に、フィジカルAIは、半導体や大規模言語モデルをめぐる米中競争が、現実の物理世界へ広がったものです。どれほど高性能なAIモデルを開発しても、パソコンやスマートフォンの中だけでは、工場で部品を運んだり、危険区域を点検したり、清掃や介護を行ったりすることはできません。ロボットは、AIを現実世界へ接続するための身体です。

第二に、フィジカルAIは中国の製造業全体を引き上げます。ロボットには半導体、高精度センサー、モーター、減速機、軸受、電池、制御基板、通信モジュール、新素材など、多数の部品が必要です。そのため、フィジカルAI企業を育てることは、ロボットメーカーだけでなく、中国のハードウェア産業とサプライチェーン全体を育てることにつながります。

第三に、高齢化と労働力不足への対応です。現在のロボットが直ちに人間を完全代替できるわけではありませんが、人が集まりにくい現場、危険性の高い作業、設備点検、物流、清掃などから導入が進む可能性は高いでしょう。

つまり、中国政府にとってフィジカルAIは、単なる一つの新産業ではありません。AI、半導体、製造業、労働力問題をまとめて接続し得る、産業政策上の重要テーマなのです。

次のIPOに最も近いDeep Robotics

Unitreeの次に上場する可能性が高い企業として、最も分かりやすいのがDeep Robotics(云深处科技)です。同社は2017年に浙江大学系のチームによって設立され、X20、X30などの四足歩行ロボットや、車輪と脚を組み合わせた山猫シリーズ、ヒューマノイドロボットDR01/DR02などを展開しています。

Deep Roboticsの公式サイトでは、電力巡検、応急救援、管廊・トンネル、金属冶錬、建築測量、教育研究といった用途が前面に出されています。これは、同社が「未来の万能ヒューマノイド」だけでなく、すでに現場課題が明確な点検・救援・産業用途から事業を作っていることを示しています。

Deep Roboticsの強みは、将来の構想だけでなく、顧客、売上、利益の輪郭が見えやすいことです。2025年の売上高は3億元を超え、黒字化したと報じられています。さらに2026年5月には、上海証券取引所が同社のIPO申請を受理したと報じられており、他の企業が「上場準備中」「将来の有力候補」とされるなかで、同社はすでに上場審査の入口に立っています。

ただし、Deep Roboticsをヒューマノイドロボット企業としてだけ理解すると、実態を見誤ります。現時点の主力事業は四足歩行ロボットと車輪脚型ロボットであり、ヒューマノイドロボットの商業売上はまだ限定的と見るべきです。正確には、四足歩行ロボットで事業基盤を作った企業が、その顧客、運動制御技術、保守体制を活用してヒューマノイド領域へ広げようとしている構図です。

これは弱みではありません。多くのヒューマノイド企業が研究開発費を投じながら収益化に苦しむなかで、Deep Roboticsにはすでに製品を購入する顧客と、現場でロボットを運用してきた経験があります。資本市場が最終的に評価するのは、ロボットが展示会で華麗に動けるかどうかではなく、顧客企業がその製品に継続してお金を払うかどうかです。

その意味でDeep Roboticsは、今回の4社のなかで最もIPOに近い現実派の企業といえます。

Agibotは中国版ロボット総合メーカーを目指す

Agibotは、製品開発、量産、部品、シミュレーション、データ、AIモデル、開発プラットフォームまでを広く押さえ、中国を代表するロボット総合メーカーを目指している企業です。2023年に設立され、ファーウェイ出身者を含む創業チームによって急速に存在感を高めてきました。

同社の特徴は、一台の万能ヒューマノイドロボットにすべてを賭けていないことです。公式サイトでも、A2、X、Genie、D1、C5といった複数の製品群に加え、AGIBOT World Dataset、開発プラットフォーム、データサービスなどを打ち出しています。人型である必要がない作業には車輪型や用途特化型を使い、人間に近い空間での移動や協働が求められる場面ではヒューマノイドを使うという、現実的な製品戦略です。

Agibotを評価するうえで重要なのは、ロボット本体だけではありません。器用な手、実機データ、シミュレーション、ロボットOS、開発者基盤まで含めて見る必要があります。完成品メーカーというより、ロボット本体、データ、AIモデル、シミュレーション、開発者基盤を一体化したフルスタック企業として理解すべきです。

一方で、「生産した台数」と「顧客現場で稼働し、利益を生んでいる台数」は同じではありません。今後確認すべきなのは、有償販売台数、顧客への納入台数、日常的な実稼働台数、故障率、保守費用、一台当たりの粗利益です。Agibotは量産能力と製品群では最有力候補の一社ですが、IPOに向けては「作れる会社」から「継続的に利益を出せる会社」への転換を証明する必要があります。

GALBOTはAIモデルと合成データで勝負する

GALBOTは、ロボット本体の量産競争だけでなく、ロボットを賢く動かすAIモデルとデータ基盤に大きく賭けている企業です。北京大学系の研究者を中心に設立され、国家系ファンド、半導体企業、自動車メーカー、通信会社、エネルギー企業などから資金調達していると報じられています。

同社の中心技術は、視覚、言語、動作を一つのモデルで処理し、ロボットの全身と器用な手を制御するエンドツーエンド型のAIモデルです。特に注目されるのが、合成データを重視する開発思想です。

生成AIはインターネット上の大量の文章や画像を学習できますが、ロボットには、物をつかむ際の力加減、摩擦、滑り、姿勢の崩れ、センサーの誤差など、物理世界特有のデータが必要です。これを実機だけで集めると、膨大な時間と費用がかかります。そこでGALBOTは、仮想空間で大量の動作データを生成し、実機データで補正する方向を取っていると見られます。

この手法が成功すれば、ロボットに新しい作業を学ばせるコストを大幅に下げられます。ただし、仮想空間と現実世界には必ず差があります。シミュレーション上では成功しても、実際の工場では照明、部品の個体差、モーターの劣化、床の傾き、センサーのノイズなどが影響し、同じように動けないことがあります。このSim-to-Realギャップをどこまで埋められるかが、同社の技術力を判断する重要なポイントです。

GALBOTは、ヒューマノイドロボットGalbot G1に加え、産業用途向けの高荷重ロボットGalbot S1を展開しているとされています。小売や医薬品販売の現場では、受注、商品ピッキング、梱包、在庫補充、棚卸しまでを自動化する実証も進められています。

ただし、評価すべきなのは導入企業の知名度だけではありません。何台が本格稼働しているのか、人間の作業時間をどれだけ削減したのか、監視なしで何時間動けるのか、顧客が追加購入したのかまで見なければ、商業化の実力は判断できません。GALBOTは技術的な将来性では非常に有力ですが、IPOに必要な売上の再現性を今後証明する段階にあります。

TARS Robotics(它石智航)は精密作業という最難関に挑む

TARS Robotics(它石智航)は、今回の4社のなかで最も若く、創業チームの経歴と大型資金調達によって一気に注目を集めている企業です。Notionの企業名DBでは、同社はVLA/世界モデル系の企業として整理されており、AWE3.0、WIYH、SenseHubなどのモデル・データ関連の取り組みが記録されています。

自動運転とロボットは、一見すると異なる産業に見えますが、実際には近い技術を使用します。カメラやセンサーで周囲を認識し、次に起きることを予測し、移動経路や動作を決め、リアルタイムで機械を制御するという点では共通しています。中国で自動運転企業の人材がフィジカルAI分野へ移っているのは、この技術的な近さが理由です。

TARS Roboticsが注目を集めたデモの一つが、ロボットによる刺繍です。刺繍は一見すると展示会向けの演出に見えますが、技術的には非常に難しい作業です。布、ケーブル、電線のような柔らかい物体は、つかむと形が変わり、位置も一定ではありません。これを扱うには、視覚認識だけでなく、力加減、微細な位置補正、変形の予測、作業中のリアルタイム修正が必要です。

この技術が実用化できれば、自動車のワイヤーハーネス、衣料、ケーブル、柔軟素材の組立など、これまで自動化が難しかった工程へ応用できる可能性があります。特にワイヤーハーネスは、形状が柔軟で部品点数も多く、長年にわたり自動化が難しい工程の一つとされてきました。

ただし、同社は設立からまだ日が浅く、巨額の資金調達と優秀なチームが、そのまま売上や量産能力を意味するわけではありません。現時点では、完成した事業というより、将来大きくなる可能性を持った技術オプションと見るべきです。IPOという観点ではDeep RoboticsやAgibotよりも時間が必要ですが、柔軟物操作や精密作業を本当に産業化できれば、大きな市場を生み出す可能性があります。

中国フィジカルAIは「作れるか」から「儲かるか」へ

4社を比較すると、それぞれが異なる勝ち方を狙っていることが分かります。

  • Deep Roboticsは、四足歩行ロボットを電力、消防、危険作業へ導入し、売上と利益の輪郭を作っています。
  • Agibotは、多様な製品群と量産能力を武器に、ロボット本体、データ、AIモデル、開発基盤を統合した総合プラットフォームを目指しています。
  • GALBOTは、AIモデルと合成データによって、ロボットが新しい作業を学ぶコストを下げようとしています。
  • TARS Roboticsは、柔らかい物体や精密作業という、自動化が最も難しい領域へ挑戦しています。

現時点で「Unitreeの次にIPOする企業はどこか」と聞かれれば、すでに申請が受理されたと報じられているDeep Roboticsが最有力です。一方、将来的な企業規模や産業への影響力では、AgibotやGALBOTも有力です。

ここで重要なのは、ロボットの生産台数や資金調達額だけを見ないことです。フィジカルAI企業を評価する際には、新しい動作を学ぶための時間とコスト、有償顧客数、追加購入率、実稼働時間、人間の介入回数、故障率、保守費用、顧客の投資回収期間を見る必要があります。

展示会で歩き、踊り、物をつかむことと、工場で毎日安定して働くことの間には、深い谷があります。中国のフィジカルAI産業は、ロボットを作れることを証明する第一段階を終えつつあります。次に問われるのは、そのロボットが顧客の現場で継続的に価値を生み、事業として利益を出せるかです。

資本市場への上場ラッシュはゴールではありません。むしろ、技術デモ中心だった業界が、売上、利益、顧客、保守、投資回収という現実的な評価にさらされる、本当の競争の始まりだと考えるべきでしょう。

日本企業が中国フィジカルAI企業を見るときの確認項目

日本企業が中国のフィジカルAI企業と提携、調達、代理販売、PoC、共同開発を検討する際には、企業の知名度や動画の派手さだけで判断すべきではありません。最低限、次の項目を確認する必要があります。

  • 有償顧客と実稼働現場はどこか
  • 販売台数と生産台数は区別されているか
  • 故障率、保守体制、部品供給体制は確認できるか
  • 日本で使う場合の安全性、認証、責任分界点は整理できるか
  • 取得データの所有権、利用範囲、モデル改善への使用条件は明確か
  • PoC後に本導入へ進むための価格、運用費、保守費、投資回収期間が見えるか
  • 日本側の現場データや業務ノウハウを、どのように守りながら活用できるか

中国フィジカルAI企業の多くは、開発スピードが速く、製品更新も頻繁です。一方で、発表資料、デモ動画、投資ニュースだけでは、現場導入の実態までは分かりません。日本企業にとって重要なのは、どの企業がすごいかを眺めることではなく、自社の技術、顧客基盤、現場ノウハウをどの企業と組み合わせれば事業になるかを見極めることです。

中国フィジカルAI企業の調査・提携・視察を支援します

株式会社ロボットワークスでは、中国のヒューマノイドロボット、四足歩行ロボット、フィジカルAI、主要部品、AIモデル、データ基盤などを対象に、日本企業向けの市場調査と事業開発支援を行っています。

中国企業のニュースを翻訳するだけではなく、実際の顧客導入、量産状況、販売台数、技術の成熟度、経営陣、資金調達、サプライチェーンまで確認し、日本企業にとって提携価値があるかを整理します。

また、中国企業との面談設定、現地視察、工場・研究開発拠点の訪問、競合比較、提携候補の選定、部品・製品調達、中国企業の日本市場参入支援にも対応しています。フィジカルAI分野で中国企業との協業を検討している企業、経営会議や新規事業部門向けに中国市場の調査が必要な企業、現地の実態を踏まえた視察を希望する企業は、株式会社ロボットワークスまでお問い合わせください。

表面的なロボットブームではなく、どの企業が実際に顧客価値を生み、次の産業インフラになり得るのかを一緒に見極めます。

まとめ

UnitreeのIPO進展は、中国フィジカルAI産業が資本市場から本格的に評価され始めたことを示しています。その次に続く候補としては、上場申請の進展という意味でDeep Roboticsが最も近く、量産・総合プラットフォームという意味でAgibot、AIモデルとデータ基盤という意味でGALBOT、精密作業という意味でTARS Roboticsが注目されます。

ただし、次の勝者を決めるのは、ロボットの見た目や資金調達額だけではありません。実際に顧客の現場で稼働し、保守され、追加購入され、利益を生むかどうかです。中国フィジカルAI産業は「作れるか」から「儲かるか」へ評価軸が移り始めています。

日本企業にとって、この変化は脅威であると同時に事業機会でもあります。重要なのは、完成機メーカーとして正面から競争することだけではありません。部品、素材、センサー、品質管理、保守、現場データ、PoC設計、システムインテグレーションなど、自社の強みをどこで生かせるかを見極めることです。

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株式会社ロボットワークス(深セン在住・代表 吉川真人)は、中国ロボット・フィジカルAI領域の調査、視察、導入検討、OEMを支援しています。具体的な企業名や製品が決まっていない、検討初期段階のご相談も歓迎です。

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この記事を書いた人

Makoto Yoshikawaのアバター Makoto Yoshikawa 代表取締役

株式会社ロボットワークス 代表取締役。中国・深圳と日本を拠点に、中国ロボット企業の日本市場展開支援、中国フィジカルAI・ロボティクス市場の現地リサーチ、企業訪問・視察企画、ビジネスマッチング、ロボティクス関連製品の販売支援を行う。ヒューマノイドロボット、サービスロボット、AIハードウェア、ロボット部品などの現地動向を継続的に調査し、日本企業向けに実務的な情報発信と事業開発支援を提供している。

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