2026年10月14日、日中経済協会が主催する深セン視察企画の事前勉強会で講師を務めました。講演では、深センを企業訪問先の集まりとして見るのではなく、ロボット、AI、部品、製造、人材、資本が結びつく都市の仕組みとして捉える視点をお話ししました。
今回の勉強会で重視したのは、訪問先の数を増やすことではありません。深センで何を確かめ、自社のどの判断につなげるのかを、出発前に考えておくことです。スマート製造やフィジカルAIの基礎を押さえ、訪問先への敬意を持って対話を設計すれば、現地で得られる情報の質は変わります。

深セン視察を成果につなげるには、訪問先を増やす前に、帰国後に何を判断したいのかを整理しておくことが重要です。
自社の課題と訪問先ごとの仮説を先にそろえ、現地で確認する質問を具体化すると、得られた情報を社内の意思決定につなげやすくなります。
中国企業視察・現地調査の目的設計や訪問先の選定、確認項目の整理について相談したい企業の方は、既存のサービス案内をご覧ください。
登壇の概要
| 実施日 | 2026年10月14日 |
| 主催 | 日中経済協会 |
| 位置づけ | 深セン視察企画の事前勉強会 |
| 講演テーマ | なぜ今、日本企業はもう一度深センを見るべきか|ロボット・AI・スマート製造・サプライチェーンから読み解く中国イノベーションの現在地 |
| 登壇者 | 吉川 真人(株式会社ロボットワークス 代表取締役) |
| 主な内容 | 深センの産業エコシステム、スマート製造、フィジカルAIとロボット産業、視察の準備と視察後の事業検討 |
当日のゴール:深センを見るための5つの視点
講演の冒頭では、深センを見るための「判断軸」を持つことを当日のゴールに掲げ、次の5つの視点を示しました。
- 現地で見た実装から深センを読む:店舗や配送で動くロボットの観察から、作業と運用の姿をたどります。
- スマート製造の構造を理解する:工場全体をデータでつなぐ仕組みと、深センの強みを整理します。
- フィジカルAIの競争軸を理解する:現場データ・触覚・ロボットハンドが重要な理由を知ります。
- 日本企業が見るべき論点を持つ:完成機だけでなく、部品・データ・運用・商流を評価します。
- 視察後の事業検討につなげる:現地で得た証拠を社内の検討へつなげる準備をします。
持ち帰りとして挙げたのは、「深センの開発スピードの秘密」「ロボットの実用化の現在地」「日本企業の次の判断」の3点です。以下では、当日お話しした内容のうち、主なものを紹介します。

深セン視察は、フィジカルAIを背景に再び活発になっています
深センには、いま2度目の視察ブームが訪れていると感じます。
コロナ前の視察では、乗り捨て式シェアサイクル、無人コンビニ、スマートフォン決済、ドローンなど、街を歩きながら変化を体験できるテーマが注目されていました。「漁村から赤いシリコンバレーへ」という成長物語とともに、深センは新しいサービスや製品が早く形になる街として、日本企業からも関心を集めていました。
コロナ禍を経て人の往来が落ち着いた時期がありましたが、2025年以降はフィジカルAIへの関心が高まり、ロボットやスマート製造をテーマに深センを訪れる日本企業が再び増えています。私の周囲でも、大手企業からスタートアップまで、企業視察、技術調査、事前勉強会に関する相談が急増しています。
ただし、現在の深センを「漁村から赤いシリコンバレーへ」という古い説明だけで捉えると、見落としが生じます。見るべきなのは、個別企業の製品だけではありません。設計、部品調達、試作、製造、販売、改良を支える人・もの・情報のつながりや、深センと東莞を含む広域の産業基盤です。今回の勉強会でも、個々の企業を都市全体のエコシステムの中に置いて考える方法を取り上げました。

実際に深センと北京で複数の企業を訪問して見えた、都市の分業や「データを作る産業」の立ち上がりは、中国ロボット企業視察|深セン・北京6社で確認した5つの論点で紹介しています。

事前勉強会では、深センを「都市の仕組み」として見る方法を共有しました
講演の前半では、深センの産業構造とスマート製造を扱いました。製造業の基盤の上に、電子機器、AIハードウェア、ロボット、ソフトウェア、現場での実装が重なってきたこと、深センと東莞など周辺都市の企業・供給網がどう結びついているかを整理しました。
スマート製造については、ロボットを一台導入することだけを指すのではなく、設備やセンサー、製造管理システム、AIによる分析・判断がつながり、現場の結果が改善に戻る仕組みとして説明しました。政策が掲げる目標、企業が公表する導入実績、工場で実際に動いている工程は、それぞれ分けて確認する必要があります。HONORの工場事例や深セン市の「AI+先進製造業」計画なども、その違いを考える材料として紹介しました。

後半では、フィジカルAIとロボット産業を取り上げました。AIが現実の環境を認識し、状況を判断し、ロボットの身体を動かすには、モデルだけでなく、センサー、ロボットハンド、触覚、制御、現実世界で取得するデータが関わります。PaXiniの触覚・データ関連の取り組みや、UBTECHのロボット製品・現場導入を題材に、企業ごとの技術が産業のどの層を担うのかを考えました。
同時に、デモで動いたことと、顧客の現場で安定して使われることは別の段階です。受注、生産能力、実際の生産、納入、稼働も同じ意味ではありません。視察では、発表資料に記載された数字をそのまま並べるのではなく、何が確認済みで、どこからが企業の目標や計画なのかを質問して確かめることが大切です。

企業訪問を「スタンプラリー」にしないために
深センを訪れる日本企業が増える中で、改めて考えたいのが企業訪問のあり方です。訪問先を多く回ることや、著名企業の受付で写真を撮ること自体が、視察の成果を保証するわけではありません。
日本企業は、会社の看板を背負って現地を訪れます。その場で「とりあえず話を聞かせてください」と求めるだけでは、相手に一方的な負担をかけ、会社の印象を損なうことがあります。
私が現地企業や関係者と接する中でも、訪問件数の増加に伴い、準備が不十分な訪問が受け入れ側の負担になっていることを懸念する声を耳にします。こうした状況が続けば、目的を持って真剣に訪問したい企業にとっても、アポイントを得るハードルが上がりかねません。
日本企業の意思決定が深センの企業より慎重で、時間がかかること自体は、現地側にも一定程度理解されています。重要なのは、無理に相手のスピードへ合わせることではありません。自社が何を検討しており、なぜその企業を訪問したいのかを伝え、限られた時間を尊重した対話を準備することです。
訪問前には、少なくとも次の5点を整理しておくことをおすすめします。
- 視察後に自社で何を判断したいのか。技術の採用、協業先の選定、PoCの実施、投資検討など、帰国後の判断を明確にします。
- 訪問先の事業と技術を事前に調べたか。公開資料や過去の発表を読み、現地でなければ確認できない点を見極めます。
- 訪問先ごとの仮説と質問を用意したか。「何をしていますか」だけでなく、自社の課題や用途に照らして確認したいことを具体化します。
- 相手にとっての対話の意味を考えたか。日本市場の課題や自社の技術・顧客基盤など、相手にも共有できる情報を整理します。
- 視察後の次の一歩を決めているか。追加調査、技術評価、商談、PoCなど、訪問後に誰が何を進めるかを決めておきます。
勉強会では、企業の説明を数量・作業・運用の証拠に分けて確かめるための質問も共有しました。

現地で写真を撮り、生成AIで報告書を作って終えるだけでは、せっかくの訪問を社内の意思決定に生かしきれません。事前の仮説、現地で確認した事実、帰国後の評価をつなげて初めて、視察は次の行動につながります。視察の進め方の全体像は、中国スマートファクトリー調査・視察の進め方でも整理しています。

視察先の数を決める前に、帰国後に何を判断したいのかを整理しておくと、訪問先と質問が絞られます。ロボットワークスでは、中国企業視察・現地調査として、視察の目的設計から訪問先の選定、現地での確認項目の整理まで支援しています。
視察を新規事業やPoCの検討につなげる
今回の勉強会では、ロボットやフィジカルAIの動向を知ることに加え、視察後に何を判断するのかも取り上げました。PoC(概念実証)を検討する場合は、開始前に作業成功率、介入頻度、処理時間、安全性、保守費用などの評価項目と合格条件を決めておく必要があります。現地で技術を見てから、初めて評価基準を考えるのでは、導入可否を判断しにくくなります。

株式会社ロボットワークスでは、中国・深センを拠点に、中国のロボット、フィジカルAI、スマート製造などを対象とした市場調査、企業視察の設計(中国企業視察・現地調査)、企業ヒアリング、導入・事業化検討(PoC・導入検討支援)を支援しています。視察先を訪れる前の勉強会から、当日の確認項目の設計、現地で得た情報の整理、その後の新規事業やPoCの検討まで、依頼内容に応じて対応します。

企業向けの勉強会・セミナーをご依頼いただけます
今回のような視察前の勉強会や、中国のロボット・フィジカルAI・スマート製造をテーマにした企業向けセミナーは、ご依頼に応じて実施しています。参加者の部署や関心、視察先、検討中の事業に合わせて、テーマと内容を設計します。「深センで何を見ればよいか」「フィジカルAIをどう理解すればよいか」といった初期段階のご相談からお受けします。
企業向けの講演の別の実施例は、中国リアルデータ×AIとは|4領域の事例と新規事業の論点で紹介しています。今回の講演資料に関心をお持ちの方も、共有可能な範囲を確認したうえでご案内します。勉強会だけでなく、現地視察やリサーチ、その後の事業検討まで一貫して相談したい企業も、ぜひお問い合わせください。
講師と会社について
講師の吉川 真人は、2019年から深センに在住し、中国語の公式資料と現地での企業訪問・実機確認を組み合わせて、中国のロボット・フィジカルAI・スマート製造を調査しています。公式資料、実機、現場での観察を区別して報告することを基本にしています。

株式会社ロボットワークスは、中国・深センを拠点に、日本企業向けの中国ロボット・フィジカルAI市場調査、企業視察、現地ヒアリング、導入・事業化検討を支援しています。

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- 中国スマートファクトリー調査・視察の進め方|企業選定から現地ヒアリング、PoCまで
- 中国ロボット企業視察|深セン・北京6社で確認した5つの論点
- 中国リアルデータ×AIとは|4領域の事例と新規事業の論点
- サービス内容|中国ロボティクス調査・視察・導入支援
参考情報・出典
- 日中経済協会 事前勉強会資料「なぜ今、日本企業はもう一度深センを見るべきか」(株式会社ロボットワークス、2026年10月14日)。本記事の画像は、この講演資料の一部です。
- 講演資料で取り上げた公表資料:HONOR公式「HONOR Intelligent Manufacturing Industrial Park」(2021年11月4日)、深圳市工業和信息化局「深圳市“人工智能+”先进制造业行动计划(2026-2027年)」(2026年2月12日公開)。各社の製品・決算情報は講演資料の出典欄に記載しています。本記事の本文では個別の数値を引用していません。
中国フィジカルAIの動向を継続して把握したい方は、月次レポートで関連情報を確認できます。
月次レポートでは、中国企業や市場の変化を事業判断の視点から整理しています。
この記事の視察準備・勉強会の内容とは役割が異なるため、継続的な情報収集の導線として案内します。
深セン視察・企業向け勉強会をご検討の方へ
深センの視察を成果につなげたい、視察前の勉強会を社内で開きたい、中国のロボット・フィジカルAI・スマート製造について社内向けに話してほしい、という企業の方は、ご相談ください。株式会社ロボットワークスが、目的に応じた勉強会・調査・視察・事業検討の進め方を整理します。視察の時期や関心のある分野など、現時点で分かる概要をお送りいただければ構いません。
RobotWorksについて
株式会社ロボットワークスでは、中国の人型ロボットやフィジカルAI企業について、製品スペックだけでなく、実際の導入環境、建物との連携、保守、データ利用、PoC条件まで含めて調査しています。中国企業の調査、現地視察、日本での導入候補選定やPoC設計について相談が必要な企業の方は、お問い合わせください。
株式会社ロボットワークスWebサイト
https://www.robot-works.jp/
筆者プロフィール
吉川真人。株式会社ロボットワークス代表。中国・深センと日本を拠点に、フィジカルAI、AIハードウェア、スマート製造を中心としたリサーチおよび事業支援を行っています。日本企業を対象に、中国企業・市場の調査、現地視察、商談アレンジ、製品開発、工場・パートナー開拓、中国企業の日本市場参入支援などを手掛けています。
TBS「THE TIME,」海外特派員として中国の現地情報を発信した経験を持ち、現在はGMO AIR顧問、NAGALAB社外取締役を務めています。中国の技術・産業動向を、現地の一次情報と事業の視点から継続的に発信しています。
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